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しょっぱなからシリーズです。
沙慈+4人組。井戸端会議。
TOKYO DAYS 01
TOKYO DAYS 01
エレベーターを降りると、お隣さんの玄関前に、見慣れない男女が3人立って居るのが見えた。
混血の進んだこの時代を象徴するかのようなバラエティに富んだ容姿の3人組。お隣の、刹那と名乗る少年よりやや年上のようだ。
(友達かな?)
セキュリティの厳しいこのマンションにここまで入ってきているということは、オーナーがあらかじめ客として登録してある人物に違いない。だがたとえ不審者ではないとわかっていても、廊下に立たれるとあまり気持ちのいいものではない。
彼らがエレベーターの音に一斉にこちらを見るものだから、沙慈は一瞬居心地の悪い思いを味わった。
とはいえ目的地は彼らのたたずむ隣にある我が家の玄関であり、意を決して自宅のドアへと進む。
関心を無くし別方向を向いた3人組であったが、沙慈が隣人であったことに気づき、再びこちらに視線を向ける。
(な・・・なんか、きまずい、かも)
3人の視線が痛い。ここで平然を装い無視できないのが、沙慈・クロスロードという少年であった。
「こ、こんにちは~」
愛想笑いを貼り付けぺこりと会釈をし、かかわらないうちに家に入ってしまおう、と指紋認証キーに手をかけようとしたとき、一人が返事を寄越した。
「こんにちは。君は刹那のお隣さん?」
沙慈がびくっと体をこわばらせたのを見て、声をかけてきた青年が、困った顔をする。
「あちゃ~、怖がらせてすまないな。俺はロックオン・ストラトス。刹那の友人だ。よろしく」
「あ、はい。僕は、沙慈・クロスロードです。」
ロックオンと名乗る青年の穏やかな物言いにほっとして、沙慈は力を抜いた。
「刹那を待ってるんだけど、なかなか帰ってこないんだ。で、ここで立ってるしかないって訳なんだけど」
「はあ・・・」
「携帯にも出ないんだよな~。ど~こほっつき歩いて居るんだか」
と、ロックオンは頭をガシカシと掻く。
「あ、それなら」
つい先刻、メトロの出口あたりで、ハンバーガーにかじりついていた刹那を見かけていた。
ので、そう告げると
「まじかよ!あれだけちゃんとしたメシ食えって言ってあんのに。俺の今までの努力はどーすんだよ!!」
と頭を抱え込む。見ると彼らの手にはそれぞれ食料の入った袋が持たれてあり、そのうちの一人、紫色がかった髪をした、これはもうものすごい、と表現して差し支えないくらいの美人が肩をすくめた。
肩までのストレートヘア、色白の肌に赤みの差した唇が映える美女。眼鏡をしていてもかえって知的に見えて美貌をそこなわない。
(わわわ、こんな美人初めて見たよ~!!)
顔を赤らめ彼女をぼうっと眺めていると、傍らからくすくすと笑い声が聞こえた。
「ロックオン。そんなこと言っても、僕たちは刹那に何も連絡していないんですから、しかたないですよ」
「え!」
瞬間、電撃にでも打たれたかのように、声の主に振り向いた。
「なに?」
声の主が沙慈に問う。
長身で黒い髪の青年が、穏やかなほほえみを浮かべ、沙慈と目を合わせた。
人革連の軌道エレベーター
切り離された重力ブロック
限界離脱領域まであと5分
ルイスのおびえた顔
パニック寸前の空気
そしてソレスタル・ビーイング。
「死にたくなければ、真ん中に集まるんだ!急げ!!!」
力強く響いたその声は、ただ助けたい、という必死な感情に満ちていて、そして―
「どうした?アレルヤの顔に、なにかついてる?」
ロックオンの声にハッと我に返ると、アレルヤという青年が困った顔をして自分を見ており、そのグレーの瞳と目が合った瞬間、沙慈は首まで真っ赤になった。
「すすすすいません!!・・・その、声が」
「声?」
「は、はい・・・その・・・。知ってる声にそっくりで、びっくりして」
「僕の声が?」
「はい」
アレルヤの声が、またも耳を打つ。
あの重力ブロック事故は恐怖の一語に尽きた。
死へのカウントダウンを待つ恐怖もさることながら、自分がたまたま足を踏み入れていたちっぽけな箱があっけなく虚空に漂い、なすすべもないことが恐怖だった。
沙慈・クロスロードという人格もこれまでの人生も知識も経験もなにもかもがまるきり無視されて、ただ流されていくという全否定と無力感は、圧倒的だった。
事故だの宇宙の無慈悲だの運命などという陳腐な言葉で塵のように消えていくことが
(こわかった、情けなかった・・・ほんとうに。でも)
あの時重力ブロック内に響き渡った若く力強い叫び声によって、一瞬のうちに世界に色がついたのだ。
―そしてその声で、あそこにいた人間すべてが、運命に許された。
何を自分は余計なことまで言い訳しているのだろうと思うが、ちゃんと説明したい気持ちが働いて沙慈は続けた。
彼のひとと同じ声を持つこの青年に、聞いて欲しいと思った。
「すごく会いたい人なんです。声しか知らないし、あなたであるわけは絶対ないんですけど」
誰だってソレスタル・ビーイングと勘違いされたら不快な思いをする。絶対ない、を強調して沙慈は説明を続けた。
「僕は、会えたらその人に・・・」
「何をしている」
「刹那!遅いぞこの野郎」
突然話を切られて沙慈は言葉を飲み込んだ。
「夕飯を食べてた」
客を待たせていたことを謝りもせずしれっと返した刹那に、ロックオンが噛みつく。
「ハンバーガーが食事になるかよ」
何故それをと言おうとした刹那が視線を巡らし、固定すると、「沙慈・クロスロード」とつぶやく。てめえチクリやがったなコノヤロ、という目だ。
そりゃ逆ギレだよっていうかあんな雑踏の中で僕が見てたことが分かっていたんだね刹那君でもちょっとその目は怖すぎるよ~!!、と泣きそうになりおもわずあとずさる。
「や、そんな隠すことだと思わなくて」
「刹那のお隣さんと、ちょっと話をしていたんだよ。おにーさんがね、コミュニケーションを、さ。」
とアレルヤがロックオンを指し話を振る。刹那の関心が沙慈から外れた。
今度はひた、とロックオンに視線を据える刹那に、
「別に心配なんか、してねーよ。でもご近所づきあいは快適な生活の基本だからな」
と答えるがすかさず
「心配してるじゃないですか。刹那見てよこの大荷物」
とアレルヤがツッコミを入れて、食料の入った袋を持ち上げる。
刹那が微妙な顔をして耳まで真っ赤になった。
美人さんははあ、とため息をつく。
「心配いらない。近所づきあいはちゃんとしている。この前筑前煮をもらった!」
びし!自分を指さす刹那に、沙慈が必死に首を上下に振った。おお~!と3人の声がハモり、刹那は肩をわなわなと震わせた。
家主が帰宅したのだから家に入ろう、と促す声で奇妙な井戸端会議は解散となった。ひきとめて悪かったねと沙慈をいたわるアレルヤが、そういえば、と続ける。
「言いかけてたこと、途中で切っちゃって失礼だったね。続きがあるなら、聞かせてよ。中途半端だったろう?」
またこの声で世界に色がついた。
手をぎゅっと握りしめ、かみしめるように言葉を出す。
「そのひとに、ありがとう、って伝えたいんです。僕や友達や、みんなを助けてくれてありがとう。感謝していますって。」
目を丸くするアレルヤに、それじゃ、と言い残し、慌てたように沙慈は部屋に入ってしまった。
「なんだか変な会話だったな」
冷蔵庫に食料品を詰めながら、アレルヤがつぶやいた。
「そいつに心から感謝しているんだろうさ」
「ちょっと恥ずかしかったですよ」
「照れるな照れるな。よかったじゃないかあの坊や。言いたいこと言って、すっきりした顔していたぞ」
「はは、代理人です。声だけの」
「本人だ」
「え?」
刹那の発した言葉に、アレルヤは顔を上げた。
「だからお前が本人なんだ。あいつは、沙慈・クロスロードは、あの重力ブロック事故の被害者だ」
「だからあの言葉は、お前になんだ。アレルヤ・ハプティズム」
ぱたん、と冷蔵庫を閉める音がやけに大きく聞こえた。
「知ってたんですか」
「独房に入っていた人以外はね」
「人が悪いよ・・・」
刹那はさっさと着替えに行ってしまい。
ティエリアは雨降る窓の外を眺めており。
ロックオンはアレルヤの肩にぽん、と手を置いた。
end