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00の世界を借りて、いろいろ書き散らしています
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 セカンドシーズン 第2話後のお話です。
 
 あんまり需要なさそうですが、ライルとスメラギさんのひとコマで。 
  フェルトの例のシーンと似ちゃってますが、せっかく書いたのでもったいないからアップしておきます。


  追記 :
   アップしてから読み直してみたら、ライルがなんか矛盾したこと言ってる!!お前今寝付けないって言ったじゃん!
   あああ~ごめんなさい。
   今度からもっと推敲してから出します。
   こういうこと、いっつも後から気付くんですよ私orz
     
 
 

 
 標準時00:25
 




 
 標準時00:25 
 


 こんな自分は嫌い。
 充分情けない姿をさらしていると自覚があるから、刹那の目をまともに見られなかった。
 クルーの前に出たときも、できるなら消えてしまいたいと思っていた。
 言い訳なら、いくらでもできる。”あの事件”のトラウマから、酒で弱さを紛らすしかできなかった4年前。そして4年前の戦いで、結局自分は負けるのだと――何もできないのだと――気付かされてしまい、あっさりと心が折れた。
 そのあとは、ソレスタルビーイング時代の蓄えを食いつぶして酔いに身を任せていた。2年前ビリーのところに転がり込んでいなかったら、多分どこかで酔ったまま行き倒れていたのではないだろうか。
「おれたちは、戦う」
 そうまっすぐな声で語る刹那の視線が今はただ痛い。
 強引に手を引かれるままここについた。引きずられ、嫌がるふりをして、手を離して欲しくないと思っている。それを罪悪感とともに楽で心地いいとも感じているのは、他ならぬスメラギ・李・ノリエガ本人だ。

 
 罪悪感は、酒で消せばいい。
 夜間モードに入った薄暗い艦内を、こんなときだけきびきびと移動する。
 目的地は食堂だった。彼女はここに来てから、アルコールを口にしていない。
 アルコールが手元にひとつもないことは、ひどく彼女を不安にさせた。トレミーに来るまでの間に購入する隙はなかった。のどがひどく乾いて眠れそうにない。
 食堂に隣接した厨房なら、アルコールのひとつもあるかもしれない。酒を求めてさ迷う無様さはあえて考えないようにした。そんなこと今更だ。
 食堂のドアを開けると、緑色を基調としたユニフォームが目に飛び込んできた。
 ライル・ディランディ。ロックオンの弟だという彼は、未だ私服のスメラギと異なり既に制服に身を包んでいた。こちらに気付くとボトルを口から離して「よお。スメラギさん」と左手を挙げる。
「こんな時間に、腹でも減ったのかい」
「あなたこそ、何してるの」
「見ればわかるだろ。寝付けないんだ。新しい環境に慣れなくてね」
とボトルを持ち上げる。中身を問う視線を投げると、笑って「コーヒーだよ」と答えが返った。
「神経が興奮するわよ。寝ておかないと辛いんじゃない?明日から訓練でしょう」
「そんな繊細じゃないよ。カフェインには慣れてるしな。眠ろうと思えばいつどこでも寝られる」
「そう……」
「酒だと思ったかい? 飲酒はしないことにしている。地上ではいつ保安局がくるかわからなかったから、つい習慣でね」
「……」
 上の空で、目が自然と厨房の入り口に泳ぐ。彼に早くここを立ち去ってもらいたい。いずれわかることとはいえ、今日あったばかりの男に酒を漁る姿を見られるのは気がひける。そこまでは開き直れない。まだ。
 所在なく立ちつくしていると、彼が席を立ち、サーバーを操作して新たなドリンクを取り出す。まだここに居座るつもりかしら。スメラギが失望していると、そのボトルを軽く彼女に放って寄越した。
 キャッチした飲み物は暖かい。目で問うと「飲んでみなよ」と笑う。
 口をつけてみるとホットミルクだった。ほんのりとハチミツの甘さがする。
「寝る前だからな、暖かい物の方が落ち着くだろ」
 ボトルと目の前の男を交互に見てしまった。
「やさしいのね」
「女性限定でね」
と肩をすくめる。思わず笑いがこぼれた。
 4年前にも同じ台詞をよくロックオンは口にしていた。本当は男女関係なく皆に優しく、気をくばる人だったけれど。
 兄弟なのねと改めて顔立ちを見れば、冗談みたいに似ている。双子なのだから当然と言えばそうだが、ハロですら勘違いしていたくらいで、どうしても過去のロックオンと重ねてしまう。
 彼も彼の兄のような、包容力のある優しいひとなのだろうか。
 そうだったらいい。 
 手近な椅子に座り、ミルクを飲みながら彼を観察する。甘いホットミルクを作ってもらうなんて何年ぶりだろう。体が内側から暖まり、気持ちも一緒にほこほこと温まる。沈黙が訪れたが、不思議と気詰まりではなかった。
  

 ライルが立ち上がり、コーヒーのボトルを洗浄機に放り込んだ。
 これでやっと目的が果たせる。スメラギは内心ほっとしながら自分も立ち上がり、彼が出て行くのを待った。
 すれちがいざま、左の二の腕に暖かい感触がふれた。大きな手が、今にも厨房に向かいそうな彼女の体をやんわりと押しとどめている。顔を上げると視線が合った。
「なにを……」
「あんた、今夜俺のところに来る?」
「え?」
 何を言われたのかわからない。
 彼はスメラギのおとがいをくい、と引き上げた。
「あれ、ちがうの?てっきりお願いできるもんだと」
 次の瞬間肉を打つ乾いた音が響いた。ライルのほおを思い切り打った反動でスメラギの体が後ろに離れる。じんじんと痛む手のひらを、もう一方の手で押さえた。
 ライルは抗議するでも、赤くなった左頬をおさえるでもなく、ただ黙って彼女を見返している。 
 声がふるえないように、腹に力をこめた。
「今のことは忘れてあげる……ソレスタルビーイングはそんな所じゃないの。他の誰にも、二度とそんな発言はしないで!」
「意外だねえ、お堅いんだ」
「全体の規律が乱れるわ」
「規律って……酒のにおいさせて言われてもね」
「私はもうここの人間じゃないわ」スメラギは硬い声で言う。「強引に刹那に連れてこられただけよ! 戦うなんて私、ひとことも言ってない……いずれ地球に帰してもらうわ」
「だったら来るまでに逃げりゃよかったじゃないか。いくらでもチャンスはあったはずだぜ。いやがる振りして、俺にはあんたが自分の意志でここまで来たように見えたけどな」
「そんな……っ」と言葉が詰まる。
 痛い一撃だった。実際にはライルの言うとおりだから。
 今の自分は嫌いだった。飲んだくれて逃避する、情けない女。弱音を吐いて同情を引く女。アルコールを求めてさまよい歩く女。
 もう何年も、心の底から笑っていない。”あの事件”以来、どうしようもない無力感と絶望感が自分をさいなむ。眠ろうとすると嫌な記憶が蘇って、自然と酒の量が増えた。
 ”あの事件”と4年前の戦い。2回の敗北は、心が萎縮するには充分すぎた。もうあんな思いはしたくない。
 自堕落な生活をしていても救われないことは、聡明な彼女にはよくわかっていた。
 けれど自分から動くことはせず、楽な方へ流れていた。――変わりたいけれど、自分では立ち上がる力がない。誰かわたしを引き上げてよ。やさしくして。
「ま、あんたがここから逃げたいんだったら止めやしないけど」
 肩をすくめたライルが、再びスメラギとの距離を詰めた。両腕で壁際に追い詰めて彼女の退路を塞ぐ。
「さっきの戦術はたいしたものだったじゃないか。俺は素直に感心したぜ。美人の戦術予報士さん」
「……」
 その顔で、そういうことを言わないで欲しい。目の前の男があのロックオンだと錯覚してしまう。
 こんな状況でも誉められて嬉しい自分と、嬉しいと思う自分をあさましいと感じる気持ちと、ひどいことを言った男への憤りと。
  複雑な気持ちが混ざり合って目が熱くなる。無意識に二重写ししていた男の影が、にじんでふたつに別れた。 
「……よけてよ」
「こうでもしないと逃げちゃうだろ」
「もう部屋に戻るわ」
「えー、お相手してよ。俺あんたのこと気に入ったな」
「またそういうことを……!」
「うそうそ、冗談だって」
 ぱっとライルは手を離し、そのすきにスメラギは食堂の出口を開けた。もうここにいたくない。彼の言葉を受け止める気力も無い。 倒れ込むように体をすべらせて通路に出て誘導レバーに手をかけ、移動ボタンを押そうとした。直前で立ち止まったのは、――ロックオンからの言葉が欲しかったからかもしれない。 
「……本当に明日からハードな日になるから、あなたも休んだ方がいいわよ。……お休みなさい」
 そして逃げるようにしてスメラギはその場をあとにした。


「はいはい、お休みなさいね。酒は……あきらめたかな」
 苦笑しながら照明を落として、男も食堂を立ち去る。あとにはスメラギが残したホットミルクのボトルが残った。




 end

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