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00の世界を借りて、いろいろ書き散らしています
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 ひさしぶりにお話です。危なかったケロAレビューサイトになるところだった。
 
 毎度毎度おなじみですが今回も萌えはありません!
 
とんだオセンチ野郎警報が出てます。
 英文は詳しくないので、表現がおかしかったら教えてください。
 

 1期戦後で、アレルヤとイアン、生き残り組



 別れの儀式
 
 

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 太陽炉を、切り離さなきゃ。 
 火花散るコンソールと、コックピットに充満する煙と、制御不能になったキュリオスと。これじゃもう、トレミーには戻れそうにない。
 だったらせめて、太陽炉だけでも返さないと。
 機体はともかく太陽炉は常にトレースされているから、きっと回収してくれる。
 左手で正面のパネルを操作する。おぼつかなくて動作が遅れた。呼吸が苦しいし、正直頭もぼんやりとする。
 こんな死ぬ間際になっても、僕は右目から手を離せなかった。もし離してしまったら、そこからハレルヤが本当にこぼれて行ってしまうと思って。だから。
 つい先刻「先に逝くぜ」と残して消えた半身を、それでも僕は往生際悪く離したくなくて、必死に右目を押さえていた。 
 何とか操作を終え、最後にパスワードを打ち込む。
 ”                   ”
 これですべて終わる。
 君のところへ行けるよ、ハレルヤ。
 なんだか肩がすごく軽くなって、ふわふわした気分になる。
 僕の顔は、多分泣き笑いかな。
 せめて最期は潔くと、リターンを入れるべくキーに指を乗せる。
 その瞬間、急に体の奥に意識がひきずりこまれて、すべてがブラックアウトした。 


 別れの儀式


「イアン、今日の買い物はこれで全部ですか」
「いや。あとはミス・スメラギの酒がある。けっこうな量だぞ。見るか?」
 マーケットのカートを押す僕に、傍らを歩くイアンは今時珍しい紙のメモをひらひらと振って見せる。そこにはずらり酒の名前と、なんとその右側に『×10』なんて書いてあって、それを全部そろえた光景を想像してしまい僕は引きつり笑いを浮かべた。車に入りきらないだろ、これ。
「スメラギさんは禁酒すべきですよ」と僕はため息をついた。
 でもあの人は絶対に酒はやめられないだろう。最近特に強いものを一人あおるようになった長い髪の後ろ姿が浮かんだ。
「禁酒にいいまじないがあるぞアレルヤ」にんまりとしてイアンが僕を下からのぞき込む。「お前さんが言えば、効果てきめんだ」
「何て?」
「『あまり飲むと酒太りするからやめて欲しい』って言うんだよ」
 へえ、そうなんだと単純に信じた僕がはい、ばかでした。
 一時間後。
「ひどいですイアン、スメラギさん怒っちゃったじゃないですか!」
 リビングでひりひりする左ほおを押さえながら抗議すると、イアンはげらげらと笑い転げた。「おま、気付けよ・・・・・はっはっは」
 爆笑してる。こっちは涙目だよ。
「僕は少しでもお酒が減ればと思って」
「女性修行が足らんぞアレルヤ。”太る”っていうのは年を聞くのと同じくらい女性には禁句だ」
 ”put on weight”と明るく強調されて僕は頭を抱えた。人が悪い。僕をからかって遊んでいるんだ。
 ハロが「アレルヤ、シュギョウタラナイ。シュギョウ、シュギョウ」と耳をぱたぱたとさせる。ハロを抱えているフェルトがそれを見て表情を和らげた。
「まいったな」とほおを押さえながら僕は天井を見上げた。


 あの宇宙での戦いの後、僕とイアン、それからスメラギさんとフェルトが北の国のはずれにある王留美の別荘に滞在しはじめてかれこれ3ヶ月が経っていた。イアンが今時高級品の紙のメモなんて持っていたのは、それがここの備品だからだ。
 今の時代木材は貴重品で、伐採には厳しい規制がかけられ法外な値段がつく。それをふんだんにつかった王留美の別荘は、地味ながら実は贅の極みだった。
 木のぬくもりのある、どっしりした構えの古風な洋館。あたたかく使いこまれた家具、人が落ち着いて暮らすのにほどよい空間。別荘の背後には森がせまり、すこし歩けば海に出られる。無機質な宇宙での生活に慣れた僕には珍しいものばかりだった。
 頭上に渡された木のはりも見飽きない。それを眺めていると、突然視界がオレンジ一色になった。
 間の抜けた一対の楕円形と目が合う、と次の瞬間強烈な衝撃とともに目の前に火花が散って、僕は後ろにひっくり返った。
「うわあっ!」
「油断しすぎよアレルヤ!」
「ス、スメラギさん・・・・・・?」
「ハロ!」
「フェルト、イタイ、ハロ、イタイ」
「乙女を傷つけた罰よ」
「あんたもう乙女って年じゃない・・・・・・」
「イ、ア、ン、さ、ん!」
 仁王立ちになっていた彼女がイアンを一喝する。こわこわ、とぼやきながら彼は退場してしまった。
 あれ。
 残された僕に、仁王様がずんずんと近づいてくる。
「わたしのどこが酒太りしているっていうの」
 それはもうその場で僕を殴って終わった話題じゃないんでしょうか。
 女は同じ恨み言を何度も繰り返す生き物だぞ。
 ロックオンの言葉がありがたくもフラッシュバックしたけど、こんな場合の対処法までは教えてもらっていないわけで、僕はじりじりと詰められる間合いにあとじさるばかり。
 ハロを抱えなおしたフェルトが成り行きを呆然と見ている。形見を抱く手にぎゅ、と力が入ったのを見て、さて今はどんなピエロになろうか、と僕は思案した。


 岩壁の間を抜けて小さな浜辺に出ると、イアンが岩に座って海を見ていた。軽く振り向き「おつかれさん」と声をかけてくる。足だけで軽く岩に飛び上がり、彼の隣に並んで腰掛けた。
「ずるいですよイアン。ひどい目に遭いました」
「美人に絡まれるんだから光栄だろう」
「どうせなら別の絡まれ方がいいです」
 違いない、とからからと笑う。海風が僕たちの髪をなぶった。
「フェルトちょっと笑っていましたね」
「ああ」
 二人で共犯者の笑みを交わした。僕たちはフェルトに少しでも笑ってもらおうと頑張るピエロだった。
 彼女の表情がすこしずつ軟らかくなったのは本当につい最近のことで、ぎこちなくても笑顔を見られたときはなんだかすごく救われた気持ちになる。食欲も出て、顔色もよくなってきた。
 あの戦いは、まだ14歳の女の子には辛すぎたから。 
 3ヶ月が経った。
 僕は水平線に目をこらした。北の国の柔らかい午後の日差しが海を輝かせている。あの南洋の孤島とは違う、深い海の色だった。

 
 あの戦いで、僕が生き残ったのは奇跡的だと言われた。
 太陽炉がトレースされていたおかげで、キュリオスごと僕も見つけてもらえたのだ。切り離しが済んでいたら、僕は永遠に宇宙を漂っていただろう。
 あのときリターンを入れるだけだった僕はそのまま気絶しており、発見されたとき指がキーの上に乗っていたと聞かされた。
 既に太陽炉を放出していたエクシアとヴァーチェは発見できず、刹那とティエリアの行方は今もわからない。
 どちらかが連邦軍の捕虜になったという情報もあり、それは王留美の力で鋭意調査中だ。
 発見された直後治療カプセルに僕は入れられ、そのまま地上に運ばれたらしい。目覚めたのはこの別荘の地下にある施設だ。
 すでに戦いから一ヶ月がすぎており、僕の右目は完全に再生されていた。視力もちゃんと戻っていた。色も金色のままだった。
 けれど。
 結局僕だけが残った。
 誰もいなくなってしまった。ハレルヤも。


「さて、と」
 ふいにイアンがタバコを取り出した。
「もうそろそろ、いいよな」
 ひとりごとなのか、誰に問うたのか。ボックスから一本取り出すと、慣れた動作で火を付ける。長い息と煙が、潮風にあおられた。
 彼がタバコなんて吸っているところを初めて見た。物問う視線に気付いて、ライターをひらひらと振ってみせる。古びた銀色の、シンプルなものだった。
「モレノから奪ったやつ」
 そう言うと、またまぶしそうに海に顔を向け、煙を吸い込んだ。
 僕も海に顔をめぐらせた。 
 なぶる風に身をまかせていると、宇宙でのできごとが夢のように思えてくる。
 地球はやさしいところだ。冷たい真空と違って、やわらかい空気が包んでくれる。僕は地上が好きだ。
 地上は嫌いだと公言するティエリアは、顔をしかめて僕のことを物好きだと言った。
 浜辺で僕とティエリアが作ったカレー(ほとんど僕が作ったんだけど)を食べたあと、4人で海に足を浸した。いやがるティエリアの手をロックオンと二人で無理矢理引いたら、ロックオンはともかく、君がそんな人物だとは思わなかったとため息をつかれた。
 波に足をさらわれる感覚にティエリアはひどく驚いて、おびえたように下がってしまい、刹那は不思議そうに波打ち際にたたずみ海の塩辛さに顔をしかめ、ロックオンはそんな刹那に水をかけて怒られてた。
 僕は気持ちが浮き立って、濡れるのもかまわず膝まで沖に進んでみた。布ごしに波に洗われて妙な感じだった。
 けれど水が皮膚をなでる感覚とか、風だとか、いつもはパイロットスーツに身を包んで外部環境を遮断されていたから、肌身で感じられることは気持ちよかった。本当に。
 たった一度だけの、ぎこちない僕たちの休暇。
 本名さえも知らぬまま失った人たちとの、ほんのひとときだった。
 
  
 イアンは目をつぶり、タバコは指にはさんで、ただくゆらすにまかせている。
 僕も沈黙して目を閉じた。
 波の音だけが聞こえる。静かな静かな時間だった。
 
 
「よし、終わり」
 よっこらせ、とイアンが岩を降りた。何となく、僕もひらりと浜に降り立つ。
「ほれ」
と一本を差し出してくる。
「でもこれは」
「いいんだ。俺はもう済んだ。これはお前さんの分」
 そう言ってボックスを揺すって頭を出した一本を僕に勧める。おずおずと受け取ると、「肺まで一気に吸い込めよ」と言い、火を付けてくれた。
 言われたとおり勢いよく煙を吸い込んだ途端、呼吸器に何かがへばりつき、強烈にむせて咳こんだ。涙が出てくるしすごく苦しい。どうにも体が受け付けないみたいだ。イアンはにやりと笑うと「ちゃんと吸ってから帰ってこい」と手をひらひらとさせて行ってしまう。
 涙目で咳き込みながら何とかはいと返事する僕の目に、大事そうにライターをポケットにしまうイアンの後ろ姿が見えた。


 吸っているんだかむせているんだかわからない状態で、僕はあの最後のときを思い出していた。
 充満する煙に咳き込みながら、太陽炉を切り離すべく手を動かした。これですべておわりだと、リターンキーに指を置いた。
 瞬間、首根っこをつかまれ体の内側に急に引きずりこまれる感覚と、それから罵倒の声。
(お前、んなときばっかり潔くなってんじゃねえ!生きとけばかやろうが!!!それから、パスワードに俺の名前なんか、入れとくな!!)
 まったく最後の最後まで、手間がかかりやがる。
 そう聞こえた。
 僕はタバコを吸い続けた。全然慣れなくて咳は止まらないし、頭はぐらぐらするし、涙もぼろぼろ流れるけど、この一本をちゃんと吸おうと、がんばった。
 夕陽に染まりつつある浜辺で、みっともなく咳き込みながら、僕は涙を流し続けた。
 かっこわるいけど、こうしないときっと僕は泣けなかった。タバコが消えてしまっても僕は泣いた。あの戦いから、初めて流した涙だった。




 

 陽が沈みきったころ別荘に帰ると、ちょうど夕食の支度ができたところだった。今日は女性陣の当番で、シチューのいい匂いが立ちこめている。
「ただいま。おいしそうだね」
 フェルトに声をかけると、動きをとめてじっと僕を見上げてくる。
「フェルト?」
「よかった」と微笑んだ。
「え?」
「心配してた。いつも・・・・・・泣きそうな顔、してるから」
 目を見開く僕を、イアンが笑って見ている。
 会話を聞いていたのかいないのか、今日はナイトキャップだけにしとくわと食卓にミネラルウオーターを置いたスメラギさんが、「誰かさんに酒太りするって言われましたからね」と僕をにらむ。女は同じ恨み言を繰り返す生き物説は、今ここに証明された。
 フェルトが小さな声を上げて笑った。イアンも笑った。僕は苦笑した。シチューはあったかくて、おいしかった。


 

 end

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